ダニエル・シュミット
『トスカの接吻』(1984 スイス)

ミラノにあるヴェルディの家は、かつてイタリア・オペラに貢献した人たちの老人ホームになっている。ボクはイタリア・オペラに関してはさっぱりわかってなくて、ここに実名のまま登場するサラ・スクデーリやジョヴァンニ・ブリゲドゥたちがかつてどれくらいの大スターであったか知らない。サラ・スクデーリはなんでもかなりのプリマドンナだったらしい。それで彼女がこの老人ホームで起居していることも本当かどうか、それくらいのプリマドンナならひとかどの財を築き、どこか田舎でのんびり余生を送っていてもよさそうなのだが。

そのことはさておいて、とにかくヴェルディの家は、そうした音楽に貢献した人たちにヴェルディの著作権料を基金として生活を保証されている場であるらしい。そこでは80歳を越えた爺ちゃん、婆ちゃんたちが、単に余生を送っているというのでなく、ことあるごとに自分たちがかつて持ちえた才能で、そこここでオペラが始まる、コーラスが始まる。ピアノが弾かれる。ヴァイオリンが弾かれる。

閑話休題、キダタロウ似のジョヴァンニ・ブリゲドゥがコーラスを指揮するシーン。カメラに背を向けて、一心に指揮をとっている。カメラはこちらを向いたサラ・スクデーリをはじめとするコーラスに向けられる。ブリゲドゥは背中しか映っていない。指揮し終わったあとに、やっとそのことに気づいて、コーラスがこっちにいたんじゃ、背中しか映っていないなとカメラの前でおどけてみせる。が、しっかりラスト近くにあるコーラスの指揮ではしっかりカメラ位置を把握して立っているのだ。

これもボクにはわからないことだが、その音楽、たとえば唱法というのが、彼らがもっとも活躍した時代のままで、いわゆる過去の栄光に支えられている。それが現在、どのように発展しているのか、退行してしまってるのか、わからない。が、しかし少なくともそこで繰り広げられているのは現在の音楽でないことだけは確かである。

どっちにしろ、ヴェルディの家の中の光景は一つの切り取られた時代をつくり出す。それもかつて第一線にあった人たちによるバリバリの音楽であることは、いくらなんでもその系の音楽にまったくわかっていないボクでもわかる。ステッキなしには歩けないような爺ちゃん、婆ちゃんからあれだけの声量が出てくること自体びっくりしてしまう。そして今でもなお、トスカになりきれる人間がいるのだ!

さて、その上でほとんどドキュメントのように見せて、どこからどこまでがダニエル・シュミットによる虚構で、どこから現実なのか、音楽を超えたところで、老いること、そして人間って何なのかという問いかけにポッとほうり出されてしまう。なんともがつぅーんと一発、きっつぅいボディブローを喰らわされたような一作であった。

IL BACIO DI TOSCA

監督 脚本 ダニエル・シュミット
撮影 レナート・ベルタ
音楽 ジュゼッペ・ヴェルディ / プッチーニ
出演 サラ・スクデーリ / ジョヴァンニ・ブリゲドゥ / レオニーダ・ベロン
★★★★★
2002年10月28日(月)